投稿日:
読者の皆さまは、「自分の思う音声表現と、聞き手の受け取り方が違っていた」という経験はありませんか?
たとえば「そこの扉を閉めてもらえる?」と家族や友人にお願いする場合、キンキンと甲高い声で話すのか、穏やかな低めの声で話すのかによって、聞き手が受ける印象は大きく変わってしまいます。
これが日常生活における何気ないやり取りであるならまだしも、大切な面接や接客の場だった場合はどうでしょう?あなたが発した声が、あなた自身の未来や相手との関係性を変化させてしまうかもしれません。
今回は、そんな音声表現の難しさについてお話ししていきたいと思います。
先日、大手航空会社のファーストクラスのフライトアテンダントにインタビューする機会を得ました(ここでは彼女のことをTさんと呼ぶことにしましょう)。その方はとても落ち着いた雰囲気で、笑顔も笑声(えごえ)も所作もファーストクラスのフライトアテンダントに相応しい女性という印象でした。
そんな彼女なのですが、過去には苦い経験がありました。
当時、「ファーストクラスのお客様には落ち着いた雰囲気で接しなければいけない」と思っていたTさんは、常に低めの声で落ち着きを出し、ゆったりと静かな話し方をするように心がけていたそうです。
しかし、ある日お客様から言われた言葉は、Tさんにとって、思ってもみなかったものでした。
「あなたは、私をばかにしているのか?上から目線で話しているように感じる」
Tさんはお客様から、そう言われてしまったのです。
きっとTさんは、それまでに受けたフライトアテンダントの講習でも、「少し低めの声でゆっくりと話すことが、落ち着きあるファーストクラスに相応しい」と習っていたのでしょう。
たしかに、その教えには正しい側面もあるかもしれません。しかし、誰もが習った技術をすぐに自分のものにできるとも言えません。
落ち着いた雰囲気を出そうと意識して出した低い声も、「作り声」に聞こえてしまうと自然さに欠け、しかも慣れない発声のために、テンポもおかしくなってしまうのです。
Tさんの場合は、それが災いしたのでしょう。
実は、よほど地声が高音の方以外は、意識的に声を作らなくても、自然な発声のまま少し柔らかくするだけで印象を大きく変えることができるのです(ここで言う「少し柔らかく」とは、「自分の心をほんの少し優しく持つ」程度の意識です)。
もし自分の地声が分からない、と言う人は、自分の名前を声に出してみてください。
自分の名前を声に出すときが、あなたの一番自然な声、つまり地声なのだとNHK日本語センターで勉強していたころに、聞いたことがあります。私も試しにやってみましたが、確かにそうです。
難しいことを考えたり、無理して声を作らなくても、穏やかに優しい心を持って、地声で話すだけで十分なのです。あとはお客様や面接官に対して笑顔のご挨拶を心がけましょう。それだけで、会話には自然と笑声(えごえ)が出てくるはずです。
私に失敗談を打ち明けてくれたTさんも、不自然な作り声でテンポを崩してしまうことの方がコミュニケーションにおいてはマイナスだと言うことに気付いたそうです。
現在のTさんは、自然な発声で話せるため、人柄が声に出ていました。穏やかで優しさいっぱいのフライトアテンダントです。
そして彼女の所作には、すでに磨きがかかっているのですから素敵な女性としか言いようがありません。
そんな彼女の今があるのも、以前の苦い思いがあったからこそだということでした。
「発声は、自然に。会話は、シンプルに。ホスピタリティは、お客様の期待を超えるものを!」
それが今のTさんの姿でした。
就職活動や入学試験で大切な面接を控えている方も、「なんだかうまく話せないな」と思ったときには、穏やかに優しい心を持って、地声で話すということを心がけてみてくださいね。
(文:ましのせつこ)
次ページ:「友人が教えてくれた『人を失敗から救う言葉と所作』」言葉こころ所作研究所コラム<第6回> »